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東京地方裁判所 昭和44年(ワ)8764号 判決

原告

浅野和志

ほか三名

被告

新谷勇

主文

一  被告は

原告浅野和志に対し 金六二万二八二七円

原告浅野才治に対し 金七二万七八二七円

原告浅野菊枝に対し 金一四九万一七九三円

原告浅野政治に対し 金四三万三七〇七円

及びこれらに対する昭和四三年一二月二一日以降各完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二、原告らのその余の請求を棄却する。

三、訴訟費用は原告らと被告との各自の負担とする。

四、右第一項に限り仮に執行することができる。

事実

一、請求の趣旨

(一)  被告は原告菊枝に対し 金三一四万九〇四五円

原告和志に対し 金一七五万一二一八円

原告才治に対し 金一九二万七二九八円

原告政治に対し 金一四九万一四三八円

及びこれらに対する昭和四三年一二月二一日以降右各完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

(二)  訴訟費用は被告の負担とする。

(三)  仮執行の宣言を求める。

二、請求の原因

(一)  事故の発生

訴外亡浅野軍治は、次の交通事故(以下「本件事故」という。)によつて死亡した。

なお、その際、原告才治はその保有に属していた次の原告車を損壊された。

1  発生時 昭和四三年一二月二〇日午前六時五分頃

2  発生地 東京都荒川区東日暮里五―一―一

(三菱銀行前交差点)

3  被告車 自家用乗用車(コロナ、足立五や一九二)

運転者 被告

4  原告車 自家用普通貨物自動車

(三菱コルト・ライトバン一、〇〇〇FV、品川四に二〇二六)

運転車 浅野軍治

被害者 浅野軍治

5  態様 原告車が直進し、被告車が右折進行したために衝突した。

6  結果 右浅野軍治は翌日、関川病院にて死亡した。

(二)  責任の原因

被告は当時酩酊状態(呼気一リツトルにつき一・〇ミリグラムのアルコール)にあつて正常な運転ができないにもかかわらず被告車(被告が運行の用に供していた)を運転し、右交差点を日暮里駅方面へ右折進行しようとしたのであるから、対向して来る直進車のあるときは、その通過をまつて右折進行し、衝突を防止すべき注意義務があるのに、これを怠り、原告車の前方を無事通過できるものと軽信し、原告車の通過をまたずに右折を開始した過失により本件事故を発生させた。

従つて浅野軍治死亡に伴う損害を賠償すべき責任がある。

(三)  損害

(A)  治療・葬式等

原告菊枝、和志、才治の三名は、訴外軍治の事故死に伴い、次のとおりの出捐を余儀なくされた。この負担は右三名の平等であつた。

(1) 治療費関係 計金二一万七三六〇円

内訳 死亡までの診療費 金二一万六八六〇円

死体検案書費用 金五〇〇円

(2) 葬式等関係 計金五六万一九八〇円

内訳は別紙のとおり。

(B)  被害者に生じた損害 金八〇八万〇四三九円

(1) 訴外軍治が死亡によつて喪失した得べかりし利益は、次のとおりと算定される。

(死亡時) 六〇歳

(推定余命) 一四・八四年(平均余命表による)

(稼働可能年数) 一〇年

(収益) 一カ月金一一万五〇〇〇円。即ち軍治は有限会社浅野金物店を経営し、軍治名義で金七万円、妻菊枝名義で金四万五〇〇〇円が各々支給された形式であつたけれども、その実質は軍治の個人商店と同じであつたから、軍治の収入というべきである。

(控除すべき生活費) 金三万〇二四五円

即ち総理府統計局昭和四二年度「家計調査」によれば、大都会における勤労者一世帯当り一カ月総収入金一三万四二六三円、総消費支出金六万七〇五二円であつたから、これを基礎にした額である。

(毎年の純利益) 金一〇一万七〇六〇円

(年五分の中間利息控除) ホフマン複式(年別)計算による。

金八〇八万〇四三九円

(2) 原告らは右訴外人の相続人の全部である。よつて、原告菊枝はその生存配偶者として、その余の原告三名は、いずれも子として、それぞれ相続分に応じ右訴外人の賠償請求権を相続した。その額は、

原告菊枝において金二六九万三四八〇円

その余の原告三名において各金一七九万五六五三円宛である。

(C)  原告らの慰藉料

その精神的損害を慰藉するためには、原告菊枝に対し金一〇〇万円、その余の原告三名に対し各金五〇万円が相当である。

(D)  原告車の損害 金一七万六〇八〇円

原告車は原告才治の所有であり、昭和四三年一〇月一四日代金四六万円で新車として買入れ、事故時は新車同然であつたから右と同じ価値を有していたところ、本件事故により大破して廃車となり、その売却価格は金一万円にすぎず、その差額金四五万円の損害を受けた。しかし車輌保検金二七万三九二〇円が支給されたので、それを差引いた残金一七万六〇八〇円が車輌損害として原告才治の蒙つた損害である。

(E)  損害の填補

原告らは自賠責保険から金三二一万六八六〇円の支払いを受け、これを四人で平等に充当した。一人当り金八〇万四二一五円となる。

(四)  結論

〈省略〉

右各請求金額及びこれらに対する本件事故の翌日以降各完済に至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

三、被告の答弁

一、被告は「原告らの請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決を求め、請求原因に対する答弁として次のとおり述べた。

(一)  請求原因第(一)項は認める。

(二)  同第(二)項は否認。本件事故は原告車(軍治)の過失によつて発生したものである。即ち原告車も被告車もともに進行方向は黄色の点滅信号であつたから、双方とも徐行義務があつた。そして被告車は交差点の手前三〇~四〇米位から徐行に入り、約一〇粁の時速で交差点の中央附近から右折して、完了し、直進態勢に入つた。かかる状態のところに原告車が時速七〇粁以上で直進して来て、被告車の左ドアの中央部に衝突して来たものである。このように原告車側が信号無視、前方注視義務違反、スピード違反など、いわゆる無謀運転したために本件事故が惹起されたものである。従つて過失相殺さるべきである。

(三)  同第(三)項は不知。但し軍治の相続人が原告四名であることは認める。

(四)  同第(四)項は争う。

理由

一、請求原因第(一)項(本件事故の発生)は当事者間に争いがない。

二、同第(二)項(責任原因)につき検討する。

〔証拠略〕を総合すると次の事実を認め得る。

被告は前夜から浅草観音境内の羽子板の露天商をすませた後、飲酒し、睡眠もほとんどとらないまま加害車を運転して事故現場にさしかかつた。元来被告は酒に強くなく、当時呼気一リツトルにつき一・〇ミリリツトル余のアルコール分を身体に保有していた。

被告人は本件交差点に設置されていた前方の信号機が黄の点滅であつたのを青信号と誤信し、かつ、ヘツドライトをつけて対向直進して来た原告車を認めようとすれば十分見透しの良いところから相当前から認識可能であつたにもかかわらず、交差点の入口附近で原告車を発見し、いまだ原告車の到来よりも先に右折完了するものと考えて減速したままで右折を開始した。

他方、原告車は前方が黄の点滅信号にもかかわらず減速徐行しないで時速六〇ないし七〇粁で交差点を直進通過しようとして、直進した。

右のとおり原告車と被告車との双方に過失があり別紙見取図の如き経過で衝突し、そのはずみで、更に被告車は訴外タクシーとも衝突した。これにより双方の車が大破するとともに、軍治は路上に投げ出され頭部を強打して頭蓋骨骨折により死亡するという本件事故になつた。

右認定事実によれば、過失割合は原告車が三割、被告車が七割というべく、被告はその限度において賠償責任があると解するのを相当とする。

三、同第(三)項(損害)につき検討する。

A  治療・葬式費用等 計金五六万六三六〇円

内訳

(1)  軍治の死亡までの治療費 金二一万六三六〇円

〔証拠略〕により、治療費と死体検案書費用とで右の金額を支出したことを認めうる。

(2)  葬式等の費用 金三五万円

〔証拠略〕によれば、別紙「葬式等関係の明細」のうちイ、ハ、ニ、ホ、ヘの出捐を余儀なくされたことを認め得る。そのほかに雑費を加え合計金三五万円をもつて、被告に請求できる葬式費用等と認める。

右(1)(2)は原告和志、才治、菊枝の三名が共同で支出したものと認め得る。

B  逸失利益 金四七四万三七九二円

軍治は明治四一年三月二七日生れで事故時六〇才であり、健康体であり、有限会社浅野金物(軍治の個人商店と変りない。)を主宰し一カ月金一一万五〇〇〇円位の収益をあげていたこと、建築の金具関係を下請けし、これを更に下請けに出したりして右の収益をあげていた。この点は〔証拠略〕によつて認め得る。

従つて生活費としてほぼ半分を控除した残金六万円が軍治の一カ月の純益と認めるのを相当とする。また残余の稼働期間は八年と認める(第一二回生命表による平均余命年数の約半分余)。複式ホフマン(年別)方式で算出すると頭初の金額となる。

6万×12月×6,5886=4,743,792円

C  慰藉料

前認定の諸事実に、軍治が妻菊枝と末子の政治との一家の柱として稼働していたこと、軍治の死亡に伴い金物店を廃業し、菊枝は内職し、若干の保険金をたよりに右両名は生活を立て、最近高校を卒業した原告政治の収益をも、あてにして肩書住所で細々と生計をたてている。原告和志と原告才治とは独立して家庭をかまえている。以上の事実は「証拠略」によつて認める。

これによれば慰藉料は被告に請求できる七割を考慮に入れて原告菊枝に金一〇〇万円、その余の原告三名に金五〇万円が相当と認める。

D  原告車輌の損害 金一五万円

〔証拠略〕によれば、次の事実を認め得る。即ち昭和四三年一〇月に原告才治が代金四六万円で原告車を新車で訴外東京三菱コルト自動車販売株式会社からローンで買入れ、軍治が日常の商売に利用していた。本件事故により原告車は大破してしまい廃車を余儀なくされた。その売却価格が金一万円であつた。この車両損害につき保険会社(東京海上火災)から金二七万三九二〇円が原告才治に支払われた。原告車は新車で使用開始してから事故まで約二カ月余あつて、走行距離が五、〇〇〇粁位であつた。ローンで買入れたため、差額を支払わざるを得なかつた。

右認定事実によれば、右差額から二カ月余の減価償却をみると残損害を金一五万円と認めるのを相当とする。

E  損害の填補 金三二一万六八六〇円

弁論の全趣旨によれば、自賠責より右金額が原告らに支払われたことが認められる。

四、結論

A  治療・葬式費用等 金五六万七三六〇円の七割は金三九万七一五二円となる。これを原告和志、才治、菊枝の三名で分けると一人当り金一八万九一二〇円となる。

B  逸失利益 金四七四万三七九二円の七割に当る金三三二万〇六五四円を原告四名で各相続分(菊枝が3/9、他の三名が各2/9宛)で分けると原告菊枝が金一一〇万六八八八円(端数の五円を加える)、他の三名の原告が金七三万七九二二円となる。

C  慰藉料は原告菊枝が金一〇〇万円、他の三名の原告が金五〇万円宛である。

D  車両損害金一五万円は原告才治個人の損害であるところ、その七割は金一〇万五〇〇〇円となる。

E  損害の填補額を原告四名で分けると一人当り金八〇万四二一五円となる。

右ABCDの損害賠償請求できる額より右填補額を差引くと次のとおりとなる。

〈省略〉

右各金額及びこれらに対する事故の翌日たる昭和四三年一二月二一日以降各完済に至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容し、その余を失当として棄却し、民事訴訟法第九二条、第一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 龍前三郎)

見取図

〈省略〉

別紙 葬式等関係の明細

〈省略〉

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